三島由紀夫『仮面の告白』新潮文庫

ネタバレ注意。
名家に生まれたエリート青年の、戦中〜戦後を生きる恋(性)愛の(セルフ)ポートレイト。
初三島の上に、楯の会事件のノンフィクションを読むにあたって一冊だけでも…という不純な動機で嫁の本棚から拝借したことを告白します。
しかしまあ、知性に満ちて、端正でありつつ華麗な比喩に彩られた、これぞノーベル賞級、という貫禄の文章です。描かれるのがまた、隠微を極めた自画像であるというのも、日本文学の私小説の正統に連なってラディカルなものを感じます。
個人的な関心については、入隊検査でハネられて後、《私は軍隊生活に何か官能的な期待を抱いていた》(115p)というあたりの心情描写が、基本的にはディレッタント的な主人公像の中で興味深かったのだけど、それを作家の生の顛末と短絡はできないだろうし、天皇神聖視などの思想との距離もあって、謎は深まるばかり…まあいくらでも評論あるんだろうけど。
素朴な感想をメモすると、園子さんが決定的に傷つく仕儀にならなくてよかったなあと。『舞姫』かなんか知らんが、クソディレッタントどもの身勝手な観念で、可憐な娘が傷つく話は大嫌いなんだ。
評価はB。

仮面の告白 (新潮文庫)

仮面の告白 (新潮文庫)