高橋和巳『邪宗門』河出文庫

ネタバレ注意。

ある新興宗教団体の興亡と、それに関わる人々の生き様を通して、近代〜現代の日本の、宗教・政治・社会を縦横に論じた壮大な作品。そのスケール感と精細な描写の圧倒的な質量、まさに奇書の名に相応しい。

森田童子の曲に名前の出てくる通り、全共闘学生運動の精神史を学ぶ上では避けて通れない名前だったので、代表作を手に取ったのだけど、ここまで破格の作とは思わず、非常に愉しみながらもその全体や本質を図りかねるというのが正直なところ。

しかし縦横に展開される哲学・神学・宗教論・政治論・社会運動論といった「観念」は確かに読みどころだけど、それは決して頭でっかちなガクシャのロンブンではなく、あくまで「ひのもと救霊会」*1の興亡と、日本近現代史のダイナミックな転回をめぐって、エキサイティングな物語の中に開かれている。

聖地神部を中心に、日本中・世界中を躍動する物語には、「キャラ萌え」*2に通じるような立ったキャラクタ描写と、格調と豊かさのある優れて文学的な文章表現が息づいていて、小説としての傑出は何ら疑いのないところ。

ラストの怒涛の展開は、確かに小説的な「破綻」と捉えられるものだけど、そのカタストロフィが作品のラディカルさ、破格さを突きつけてくるのもまた確か。読後呆然としながら、達成感と何やら分からない焦燥にとらわれる、久々に圧倒的な読書体験でした。

評価はA。

邪宗門 上 (河出文庫)

邪宗門 上 (河出文庫)

邪宗門 下 (河出文庫)

邪宗門 下 (河出文庫)

*1:モデルの大本には前から興味あったけど、これはその次元を超えてるな…。

*2:特に民江さんが好きでした。