高橋和巳『我が心は石にあらず』河出文庫

ネタバレ注意。
地方都市の有力企業に研究者として奉職しつつ、労働組合活動に砕身する主人公の煩悶を描く長編。
今回は組合活動がメインということで、スケール的にはダウンしているけど、その分細密で、重苦しい雰囲気の漂う作品。研究技術者として⇔組合トップとして、家庭人として⇔不倫の恋に墜ちて、知的エリートとして⇔生活人として、社長との友情⇔それに牙をむく活動家として、様々な二律背反の中で苦悩して、やがてはすべてに背を向けるインテリゲンツィアの姿。挫折が描かれても物語としての明晰さやカタルシスからはほど遠く、それは久米洋子という印象的なヒロインとの不倫ラブロマンスにおいても同様。
それを犠牲にしてでも、戦後のインテリゲンツィアの疎外を、「こう」書かざるをえなかったのだろう必然性が確かに感じられる作品で、それはある意味対極にある『邪宗門』と同時期に連載された作であるという情報を得ればなおさら。
長編すべてが重要作。さあ、ここからどう深掘りすればいいものやら…。
評価はB−。