ネタバレ注意。
家庭内読書会「古典的名作を読もう」企画、第20回課題本。
お話自体は明治期のディレッタントの色恋中心の苦悩、あまり内容のあるものとは思われないし、キャラクタの造形的にも面白かったのは漱石得意の召使キャラ、書生の門野くんぐらい。
しかし漱石は文体である。時に堅牢、時にリリカル、瓢然としながら狂気にもふれる。視点も不安定だし描写も時に唐突であるけど、紙幅に密に織り重ねられた、変幻自在にして質実剛健の文章、その「充実感」において他の追随を許さない。
特に気に入ったセンテンスは恋愛模様で、《恋愛の彫刻の如く》(239p)なんて比喩、あとは《その晩は火の様に、熱くて赤い旋風(つむじ)の中に、頭が永久に回転した。》(283p、括弧内ルビ)なんて心象描写。
大して面白い文章じゃないけど、共感の深かったところも。
彼は学校生活の時代から一種の読書家であった。(中略)一頁も眼を通さないで、日を送ることがあると、習慣上何となく荒廃の感を催した。(中略)ある時は読書そのものが、唯一なる自己の本領の様な気がした。
(192p)
こういうのさらりと書いちゃうとさ、読書子からは好かれるよね。
評価はB。
- 作者: 夏目漱石
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1985/09/15
- メディア: 文庫
- 購入: 9人 クリック: 280回
- この商品を含むブログ (156件) を見る