津村記久子『ディス・イズ・ザ・デイ』朝日新聞出版

ネタバレ注意。
国内プロサッカーリーグの二部、最終節の十一試合それぞれに集うサポータたちの姿と思いを描く連作。
J2サポとして、こんなに幸せな気持ちで浸れる小説はないです。ここに描かれた人々…仲間の全てが愛おしく、彼らに託して描かれる、サッカーと共にある人生についての思いは至言に満ちて、深く頷き、常に泣き笑いの表情で読んでいました。
「若松家ダービー」におけるフナに対する感情とか、「えりちゃんの復活」における《気晴らしが気晴らしでなくなり、さらにそれのための気晴らしを求めてさまよい歩いているような状態》(79p)とか、「また夜が明けるまで」の二人が試合に向かう前の微妙な綱引きとか、「唱和する芝生」の《そんなに川越の名前を叫ばれても。》(302p)とか、あまりにも共感深すぎるし、「眼鏡の町の漂着」でつつちゃんがおじぎしてくれるとこ、「龍宮の友達」で写真を見せるとこ、「おばあちゃんの好きな選手」での石切についての会話…キメのシーンでもなにげないシーンでも、実にあっけなく涙腺が崩壊する。全てのサポータが…愛する何ものかを生活の中で追いかけている人々が、「他人に自分の人生をのっける」ことを誇りに思える、そうした作品…だってスタジアムでは、こんなに素敵な物語が、そこに集う誰にでも起こり得るものとして生起していると、確かなリアリティと共に感じられる*1から。
選手にもぜひ読んでもらって、自分たちの仕事がこんなにもいたいけな思いに支えられて、また感動的な物語を生み出している素晴らしいものなんだって誇りを新たにしてほしいけど、サポータのために書かれた(あえて断言)小説を読んでもなお選手のことを考える、サポータの業は深い。
おなじみ内巻敦子女史のイラストも最高な、言わずもがな全J2サポ必読の傑作です。
評価はA。
それでは今から金沢に行って来ます…あ、寿司食いにだよ?

ディス・イズ・ザ・デイ

ディス・イズ・ザ・デイ

*1:リアリティに立脚しながら文芸的な瑞々しさを湛えた見事なストーリィテリングですが、「昨年の昇格プレーオフ決勝」の顛末については、現実以下のフィクションは書けない、という心意気が覗いていて、当事者として改めて誇らしかったですw