高橋和巳『黄昏の橋』小学館P+DBOOKS

ネタバレ一応注意。
高橋和巳の絶筆、未完の長編。鬱屈した日々を送る学芸員の主人公が、機動隊との衝突で死んだ学生と、下宿先の娘に降りかかった暴力により、「外界への怒りと悲しみ」に再び囚われる様を描く。
主人公・時枝のダメ人間っぷりは、ユーモアを志向して書かれたものらしいが、俺には悲哀しか感じられなかった。同時代に生きてたらこんな感じに仕上がってた気がする…と身につまされて。舞台と事件の直接的なモデルに思いが至り、またそれに強く関連した『わが解体』の印象が新しいこともあって、無力感・敗北感が作品の全体を覆っているようで、胸が絞めつけられる思いもする。
時枝は多分この後も決定的な行動には至らないだろうし、一方で八章ラストのようにロマンティックで美しいシーンもあって、この寂寞とした小説を作家がどのように運ぶつもりであったのか、興味の尽きないところではあったが。
記録のみ。

黄昏の橋 (P+D BOOKS)

黄昏の橋 (P+D BOOKS)