ネタバレ注意。
文藝賞受賞のデヴュー長編。
(おそらく東大の)法学教授である主人公が、妻の病死、愛人関係にあった家政婦との訴訟沙汰などなど身に降りかかる厄介事を通じて、孤立を深めていくお話…などと梗概書くと下世話な通俗小説めくけれど、実際は恐ろしく稠密な文体で、法哲学に始まり、戦中戦後の社会変動、その中で法学徒を中心とするインテリゲンツィアたちがどのような思想的・行動的変遷を辿ったか(辿らさせられたか)、などという…簡単に言うとめちゃくちゃお堅いことが、過剰なほど細密に描かれている。
家族兄弟妻愛人同僚恩師とその娘、人間関係全方位的に頑迷固陋で押し通す主人公の生活描写もそうした「思想小説」と地続きのもので、その圧倒的孤絶…周囲とのディスコミュニケーションのありようがまた、作品の思想を研いでいるようでもあって、物悲しいまでにストイックな印象を残す。一方で栗谷清子とのロマンスだけは、唯一卑近なセンチメントを漂わせているが、それもやがて正木を絶望に落とすことになり…。
『邪宗門』のようなエンタテインメント性はないけれど、それでも自壊的な迫力には共通したものを感じさせる、破格の小説ではありました。タダモノじゃねーわこの作家。
評価はB。
- 作者: 高橋和巳
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 1996/05
- メディア: 文庫
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