沢木耕太郎『テロルの決算』文春文庫

ネタバレ注意。
1960年10月12日の運命の交錯に至る、国民的人気を誇った野党の老政治家…浅沼稲次郎と、右翼少年…山口二矢の来し方と、刺殺事件後の彼らとその周辺*1を描くノンフィクション。
ジャーナリスティックな、あるいはヒロイックな興味の対象であろう右翼の偶像だけでなく、左翼の老政治家の人物像についても掘り下げることで、単に少年テロリストの神格化に寄与するものではもちろんなく、戦後日本の社会状況を立体的に描き出す、読み応えのあるものになっている。
山口二矢イノセンスと、浅沼稲次郎の泥臭さって、現代の右左翼のイメージと逆になっているようでいて興味深い。左翼系の本ばっかり読んできたけど、赤尾敏だの野村秋介だの、反対側にもいろいろと面白そうな人物がいるわけで、そっちも掘るべきかと思案中です。
著者のまとまったものを初めて読んだけど、ノンフィクションの文章家としてのクオリティはさすがやなと思った。この本の「あとがき3」にだけやたら既視感あるんだけど、どっかで「名あとがき」みたいなアンソロジィでも読んだんかな…それだけのクオリティのある文章である証左と思うが。
評価はB。

新装版 テロルの決算 (文春文庫)

新装版 テロルの決算 (文春文庫)

*1:浅沼夫人の人物像は興味深かったな…造形の参考になりそう。