ネタバレ特になし。
『霧越邸』を原風景とする者にとって、この人はまず「かなりや」の詩人。メルヘンチックなイメージとシンボライズの妙、一分の隙もなく美しい日本語が結実した確かな名編だけど、詩人としての「偉大さ」が感じられるのは終盤、歌謡の項。
Coccoの歌声が鮮烈に蘇る「菓子と娘」もさながら、「蘇州夜曲」に「東京音頭」、「青い山脈」に「王将」と…。人口に膾炙するという意味においては、史上最も偉大な詩人ではないかと。
通常の詩作においては、西洋趣味とシンボライズにキャラクタがあるように思ったけど、個人的には「三七日」「永日」など、(多くは哀しみの)リリシズムを率直な心情吐露が引き立てた作に感興が深かった。
その意味でベストは「蝶」。
やがて地獄へ下るとき、そこに待つ父母や
友人に私は何を持つて行かう。たぶん私は懐から
蒼白め、破れた
蝶の死骸をとり出すだらう。
さうして渡しながら言ふだらう。一生を
子供のやうに、さみしく
これを追つてゐました、と。
(「蝶」、82p)
評価はB。
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