矢作俊彦『悲劇週間 SEMANA TRAGICA』文春文庫

ネタバレ注意。
若き日の堀口大學を主人公に、外交官である父の任地、メキシコで起こる革命と内戦、その只中での恋愛を描く歴史エンタテインメント。
久々の矢作俊彦に期待も高かったのですが、それに違わず抜群に面白かったです。最初(大學と一族の来歴と渡墨まで)は新詩社のメンバを中心に佐藤春夫など、日本近代文学の立役者たちが次々登場で文学史的な興趣があるし、メキシコに渡ってからはもう怒涛の娯楽大作ぶり、紀行・滞在小説として、戦記小説として、大學の詩人としての自意識と一人の青年としてのビルドゥングス・ロマンとして、物語の躍動感と疾走感のままに、いずれも一級のクオリティです。
なかでもやはり、斜陽にある「悲劇」の英雄、マデロ大統領の姪、ヒロインであるフエセラとのロマンスは、その登場場面に必ず種類の異なる蝶が舞う、というキマりすぎた演出含めてとても素敵でした。硬軟自在、小説家の筆力のなんたるかをまざまざと見せつける作品です。
評価はB+。

悲劇週間―SEMANA TRAGICA (文春文庫)

悲劇週間―SEMANA TRAGICA (文春文庫)