多岐川恭『人でなしの遍歴』創元推理文庫

ネタバレ注意。
表題作。何者かに命を狙われ続ける生に絶望した富豪が、「人でなし」の故にありまくる下手人の心当たりを訪ね歩き、確実にやっておくれよと頼んで回るお話。『的の男』と似たプロットで、富豪ものは結構多いしお得意なんだなと感じさせる。群像ドラマとしての面白さ、ヒューマニズムの持ち味、共によく出てるけど、真相はやや取って付けた感があったかな。でも数多ある心当たりに紛れて気付きもしなかった些細な過誤が原因になってたって構図は、全体のプロット巻き込んでシニカルな面白味はあった。
もう一編、「静かな教授」は倒叙ものの佳品。プロバビリティの犯罪のキモである、立証不可能性を覆す部分がちょっと弱いような気がするけど、被害者の夫人が鼠をトラウマにする部分の描写があまりにも恐ろしく、俺もトラウマ負いそうになったわ、ということでホラーとして加点。
評価はB−。

人でなしの遍歴 (創元推理文庫)

人でなしの遍歴 (創元推理文庫)