岡嶋二人『珊瑚色ラプソディ』講談社文庫

ネタバレ注意。
あらすじは結構複雑なのでリンク先でも参照いただくとして。沖縄を舞台に、婚約者の失われた記憶とそれにまつわる不可解を探求する「アイランド・ミステリ」です。
リーダビリティの高さと、謎の見せ方の巧さは相変わらずです。今回はしかもそれが非常にシンプルに提示されていて、かつ主人公に対する感情移入も伴っているので、個人的には今までで一番愉しく読めました。真相も舞台設定の必然性と共に、落ち着くべきところに落ち着いた感じで、エンタテインメント・ミステリとしてケチのつけようのない出来だと思います。
「アイランド・ミステリ」などとわざわざ書いたのは、ミステリあるいは広く小説における「島」というものの存在感として、この作品が新しいものを示しているからで。沖縄を舞台にしていて当然、陽光の輝かしい描写がありつつも、(主人公の心境故か)まったく楽しそうに見えないアンチ・リゾートな「石富」の存在感、また物語の核心に存在していながら、基本的にはその外延(=石富、本島)において物語が進行し、自体は「謎」そのものとして、「存在感ある空白」を示している宇留間。それが一体となって、「アンチ・アイランド」とでもいうべき独特な世界観を構成しています。特に「島」というものを主要な舞台として取り上げてきたミステリにおいては、史上に重要性の認められる作品ではないでしょうか。
評価はB+。

珊瑚色ラプソディ (講談社文庫)

珊瑚色ラプソディ (講談社文庫)