野沢尚『砦なき者』講談社文庫

ネタバレ注意。
これはヤバい。野沢尚の顛末って、この小説の出来に絶望してのことだったんじゃないかって要らぬ勘繰りがよぎるぐらいにヤバい。『破線のマリス』の(直接的にストーリィを受継ぐわけではないが)続編、てことで厭な予感はしていたのだけど。
破線のマリス』を読んだ頃に比べても、ますますテレビというメディアの失墜著しい昨今、「テレビマンの矜持!」「気概!」「報道倫理!」とか振りかぶられても虚しいだけ、という時代錯誤感はひとまず置くとしても、短編中編入り混じった必然性の分からない構成、虚飾のカリスマとして成り上がる中心人物の、リアリティも存在感もカケラとして感じられない造形、それに追随する若者たちが、結局はテレビではなくネットに依拠した存在であるという本末転倒(あるいは批評性の未熟)、すべてがあまりにも杜撰であると思う。
出自がテレビドラマの脚本家であるので、題材に対する思い入れは理解できるものの、残念ながら小説としての体をなしていない。
評価はD。

砦なき者 (講談社文庫)

砦なき者 (講談社文庫)