帚木蓬生『賞の柩』新潮文庫

ネタバレ一応注意。
ノーベル賞をめぐるサスペンス。ある受賞者の、研究上のライバルや共同研究者の謀殺疑惑が追い詰められていくストーリィ。
これまで読んだ作品同様、小説としての「迫真性」がこの作家の大きな美点であると思う。科学に対する情熱、家族愛、あるいはそれが歪んで陥っていく狂気、ノーベル賞とそれに関わって起きる事件に巻き込まれる人々の、視点を様々に変えて描かれるそうした「想い」に、説得的な迫力があって。
プロットは最初から明らかだから、そうした意味での意外性や感興はないけど、小説として骨格と筋肉の充実した作品。フランス、スペイン、イギリスと移り変わるヨーロッパの紀行興味も、物語の興を削がない抑制された味付けとして好感が持てる。
評価はB。

賞の柩 (新潮文庫)

賞の柩 (新潮文庫)