伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』新潮文庫

ネタバレ注意。
たまには積読も読まな。
ということで本屋大賞受賞作。代表作的な扱いをされているようですが、予想に反していい意味で力の抜けた、フラットなエンタテインメントとして好感度は高かったです。
どんでん返しとか伏線の妙とか、変に狡いことをやろうとせず*1、ストーリィや語りのテンポ感、大仰になり過ぎないキャラクタの魅力やその「絆」*2というメインテーマの力感で、物語をしっかり推進できていると思いました。
学生時代の、あるいは職場の仲間との連帯、家族との信頼、元恋人との絶妙な距離感。そうした「人との絆」によって織りなされるストーリィは確かに胸をうつものだし、監視社会や権力機構といったものへのアンチテーゼも、あまりに真っ正直で、力が抜けていながらも、やはり「ちゃんとした」小説だと思います。三浦の存在であったり、若干のご都合主義が見えたりもしますが、それでもこれは売れるべき質を備えた小説だし、ちゃんとセールスという評価を得ているのはいいことです。
気に入ったシーンは、

思いやり予算ってのも、あるでしょ」
「ないよ」知らなかったので田中徹は否定した。
「あるって、田中君。(後略)」
(31p)

とか。よりによってここかよ、と思わんでもないけど笑っちゃったから負け。
んでキャラで一番よかったのは樋口さんの旦那さん、伸幸さんね。名前がもういい人そう。
あとはベタだけど、ラストがいいよね。《痴漢は死ね》も《たいへんよくできました》も、最高のコピーライティングでした。
評価はB。

ゴールデンスランバー (新潮文庫)

ゴールデンスランバー (新潮文庫)

*1:陽気なギャング〜』的なことをやられても、それはそれで好きなんだけどね。

*2:「習慣と信頼」。