高村薫『黄金を抱いて翔べ』新潮文庫

ネタバレ一応注意。
もう20年ぐらい、読書が生活の中心にある生活を送っているのだけど、この高村薫という作家ほど、世間に聞く評価と自分の受ける印象が乖離している作家はいない。
もちろん、残念ながら悪い意味で。デビュー作であるらしいこの作品も、ただひたすらに退屈で、苦痛な読書だった。
偏執的なディテールの書き込みは称揚されてもいるようだが、俺にはそれが作品の根幹を支持しているようにも、重厚さを与えているようにも、あるいは物語を推進しているようにも感じられなかった。ただ、ダイハード3めいて単純なメインストーリィの荒野を、羅列されるだけの事物の詳細と人物の挿話という泥濘に足を取られながら、寂寞とした感情のまま歩んでいくような読書。
そうした印象の根幹にあるのは、人物造形に感じる圧倒的な生理的不一致である。「人間的な魅力とリーダシップを備えるが、どこか危うく躁的で狂的でもある男」と、「寡黙で他人と容易く交わらないが、芯の強い、情のこわい男」、そういったタイプの時に同性愛的幻想をまじえた交情、というのがお好きであるらしい。そんな「幻想の男」たちに、俺はまったくなんの魅力も感じられなかった。前に読んだのもそんなんだったけど、自分のイメージに酔って書かれると読んでて辛い。と言うか、はっきりと不快。本人はエンタテインメント書いてるつもりではないのだろうけど、この程度で文学ぶられても困る。
本当、読んでて虚無感に支配される。これが残ってるの最後なので、人生最後です。失礼しました。
評価はD。

黄金を抱いて翔べ (新潮文庫)

黄金を抱いて翔べ (新潮文庫)