ネタバレ一応注意。
短編集。
表題作は手塚眞の映画が結構印象深くて。迷作の類だとは思うけど、好きだったなアレ…。高校の時カブれて片っ端から観てた浅野忠信出演作品の中じゃ、ヘタしたら一番面白かったんじゃないかな…。
で、その表題作含め、意外と痴情ネタが多いです。でも文章は『堕落論』の檄文のように剛健であったりもするので、なんかちょっと歪なバランス、「武骨な太宰」みたいな印象でした。
そういう部分は個人的にあまり合わなくって、俺にとって安吾はやはり「戦争の人」、戦時下における自意識の描写が面白かった。
(前略)戦争はほんとに美しい。私達はその美しさを予期することができず、戦慄の中で垣間見ることしかできないので、気付いたときには過ぎている。思わせぶりもなく、みれんげもなく、そして、戦争は豪奢であった。
(「戦争と一人の女」、156-157p)
に続く文章として、
そのとき以来、私は昼の空襲がきらいになった。十人並の美貌も持たないくせに、思いあがったことをする、中学生のがさつな不良にいたずらされたように、空虚な不快を感じた。
(同、157p)
だって。せっかく体験した人の書くもの読むなら、こういうの読みたいよね。『少年H』なんて毒にも薬にもならないもんじゃなくてさ。ウチの祖父もディスってたわアレ。
あと戦争と関係ない文章引くなら、「私は海をだきしめていたい」の書き出しかな。
私はいつも神様の国へ行こうとしながら地獄の門を潜ってしまう人間だ。
(「私は海をだきしめていたい」、136p)
…なかなか出てこない名文w 向井秀徳もサビで叫ぶぜそりゃ。
評価はC+。
- 作者: 坂口安吾
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