連城三紀彦『戻り川心中』光文社文庫

ネタバレ注意。

大正末~昭和初期、いくつかの悲恋と死が、花をモチーフとして描かれる、「花葬シリーズ」の短編集。

千街晶之解説、《本書『戻り川心中』は、我が国のミステリの歴史において、最も美しくたおやかな名花である。》(294p)との言は、これ以上付け加えるべきなにものもないものだが、個人的にはこの光文社文庫版の五編に三編を加えたハルキ文庫版のコンプリートを読んだ時の震え上がるような興奮も憶えていて、それ故にか今回の再読では若干のアラが目についたのも確か。

抜群の衝撃と完成度を誇る表題作はともかく、それ以外の各編、事件の背後にあるものが見えた時、その瞬間のカタルシスが物足りない。連城流の美文調に、「その瞬間」が埋没してしまっている印象がした…華麗を極めた文体は、正直その他も鼻につく場面がないではなくて。

しかしそれを差し引いたとしても、世相を反映した仄暗い情緒、翳りと湿度、それに共存する熱を帯びた悲恋のドラマと、それ故に衝撃が重いプロット、花や川をモチーフに配し、文章の隅々にまで行き渡った美意識と、まさに最巧にして最麗、連城三紀彦という異能の結実した、これぞ日本のミステリの至宝というべき存在であることに違いはありません。

やはり表題作は図抜けて面白い*1けど、「桔梗の宿」も哀しくて素晴らしいよね。ありがちはありがちなプロットではあるけど、それをこう読ませてしまうのが最巧の所以よ。

評価はB+(部分再読)。

戻り川心中 (光文社文庫)

戻り川心中 (光文社文庫)

*1:映画版、ショーケン原田美枝子なん…? 観たすぎる。