江戸川乱歩『江戸川乱歩傑作選』新潮文庫

ネタバレ注意。
大学の授業のテキストで買ってた新潮文庫版。コレの他にも光文社文庫版の全集があるんよ…。
で、傑作短編集、大概は既読の作品ですが、何度読んでも蠱惑的で、オリジナルな作家だなあと思います。本人の志向はどうあれ、ロジックやサプライズにそう大した達成があるわけではないので、やはり「本格の祖」というよりは、「純文学史上」における、「一人一ジャンル」の達成者、という見方の方がしっくりときますね。
夢遊病、嗜披虐趣味、プロバビリティの犯罪、窃視趣味、そういうインモラルな夢幻を、独特の湿度のある文章で綴っていく手際の美、職人芸です。
その極点はやはり「人間椅子」。変態そのものだろこんなもんw

 さて、できあがった椅子を見ますと、私はかつて覚えない満足を感じました。それは、われながら、見とれるほどの見事なできばえだったのです。(中略)なんという坐り心地のよさでしょう。フックラと、硬すぎず軟かすぎぬクッションのねばりぐあい、わざと染色を嫌って、灰色の生地のまま張りつけた、なめし革の肌ざわり、適度の傾斜を保って、そっと背中を支えてくれる豊満な凭れ、デリケートな曲線を描いて、オンモリとふくれ上がった両側の肘掛け、それらのすべてが、不思議な調和を保って、渾然として「安楽」という言葉を、そのまま形に現わしているように見えます。
(224p)

ビフォーアフター」かw
でもせっかくいい感じでモノマニアックな世界、ラストのオチは理に堕して蛇足な感じがしました。
「理に堕して」なんて印象からも、本人が愛した本格とは哀しくも乖離していることが分かりますね。
評価はB。

江戸川乱歩傑作選 (新潮文庫)

江戸川乱歩傑作選 (新潮文庫)