小川洋子『凍りついた香り』幻冬舎文庫

ネタバレ注意。
うん、これは面白かったです。
そんなに冊数読んでるわけでもないのですが、今まで読んだ小川洋子作品の中ではベストだと思います。それは作品の質という意味においても、作家としての本質、主題を表わしているという意味においても。
端整を極めて豊かな文章、センスよくファンタジックなストーリィとガジェット。それらに加えて何より、多くは数学や論理に託される、究極的に純粋な思考、その美しさという遠大なテーマを、感動的な物語として封じ込むという、小川洋子という作家を特徴づける「抽象性」という魅力において。そのまったく独特の在り方が、《死者をたずねる謎解き》というストーリィに絶妙に揺曳しています。その意味において『博士の愛した数式』より上だと思う。
…まあそれは、好みの問題であるのかもしれません。その筆において、主人公・涼子も、自殺者・ルーキーも、とても魅力的な「探偵」「謎」として描出されていて、「これは美しいミステリだなあ」と、そんなおもっきり個人的嗜好による慨嘆が、読んでる間の感想の中心だったので。
でもだからこそ、「真相」の下世話さ、卑近さ、「ありえる感じ」は逆に蛇足だと思いました。そんな伏線の回収なんて具体的な整合性にこの作品、この作家の魅力はないし、むしろ排除すべきだと思います。もっとこの、美しい抽象の世界に遊ばせて欲しかったなあ。
評価はB+。

凍りついた香り (幻冬舎文庫)

凍りついた香り (幻冬舎文庫)