中山康樹『リッスン』講談社文庫

ネタバレ特になし。
貰い物。
副題からして《ジャズとロックと青春の日々》だって。垢抜けないタイトルに期待は皆無でしたが、案外愉しく読むことはできました。
元々「スイング・ジャーナル」の編集長だった音楽評論家のエッセィで、青春期のロック・ジャズとの出会いから、編集者としてそれを論じることを仕事にして、やがて大きな仕事をして、ホームグラウンドの雑誌を離れるまで。編年体で懐古調の筆致には私小説めいた感触も。
たとえば親の財布からくすねた金を握りしめてレコード屋に行くような、描かれる音楽との「出会い」、自分の前に無数の扉が口を開けて待っている、そんな興奮と喜びは世代を離れても共感できるし、微笑ましく読むことができた。ただ、そこに提出されるアーティストが、ビートルズビーチボーイズ、ジャズはほぼマイルス・デイヴィス一本と、あまりにもド王道に終始するのがいまひとつ面白くない。まして著者の経歴を見ればなおさら…というか逆に、そのレベルまで行くとそれ以外のアーティストにいちいち触れるのがバカバカしいのかもしれないけど。
親本は二分冊だったらしく、後半、青春期を終えての社会人編、「スイング・ジャーナルのひとびと」とでも言うべき展開になってからは、知人を面白く描こうとしてるんだけど描けてなくて、読みどころはあまりないね。
評価はC。