松下竜一『豆腐屋の四季』講談社文芸文庫

ネタバレ特になし。
著者が文筆で身を立てる以前、家業の豆腐屋を切り盛りしながら、短歌の新聞投稿を続けていた時代の、歌作を散りばめたエッセィ集。
エッセィ集という軽い響きからは遠く、貧困や病苦、家庭不和という、未だ若き身に降りかかる人生の苦渋、その理不尽への怒りが文を興す必然として滲み出す、生活苦の記録。その中で詠まれる歌も当然暗くもの寂しいものが多いのだが、それが認められ、また諍いの多かった兄弟たちの生活の安定と共に家族の絆が生まれ、年若い妻との一途でいじらしい愛情の情景と共に、生活に光が射していく様は感動的である。
そしてそれを生んだのが、「眼施」という小文に端的に表れているところの、筆者のどこまでも真摯な「やさしさ」の希求であり、それこそが後に『ルイズ』『狼煙を見よ』のような哀しくも温かい傑作を結実させたものだと、ごく自然に納得される一冊でした。
まあぶっちゃけ、あまりにも愚直な生真面目さに、実際ちょっと面倒くさい人なんちゃうのと思わないでもありませんでしたが…w
評価はB。

豆腐屋の四季 ある青春の記録 (講談社文芸文庫)

豆腐屋の四季 ある青春の記録 (講談社文芸文庫)