近藤史恵『サクリファイス』新潮社

ネタバレ一応注意。
うん、端的に言って、非常に美しい作品です。
自転車ロードレースという、多くの人にとって目新しい題材と、その慣習・儀礼に関する特殊性を描いて物語を引っ張りつつ、やがてそれがクライマックスにおいて普遍的な感動へと転化する、そのプロット構築におけるとても鮮やかな手捌き。題材は目新しいのに、それがプロットに「殉じている」と感じられるのが素晴らしい。リーダビリティも担保されながら。
≪二転三転する真相、リフレインし重きを増す主題、押し寄せる感動!≫というのが帯の煽りだけど、「リフレインし重きを増す主題」というのはまさに。小説における「主題」と、そのエモーショナルな喚起力が、こんなにも分かち難く結びつき、そしてここまで明快かつシンプルに表現された例を僕は知らない。美しいです。
『ガーデン』や『スタバトマーテル』で描かれた「女の情念」や、近作に多いフェミニズム系の主題、彼女のこれまでの作品とは味わいの異なる作品で、見事なブレイクスルーだと思うが、人間の心理や「想い」の凄み、という点においては、共通しているのかもしれない。それは、僕の好きな近藤史恵という作家の表現として。
評価はA−。

サクリファイス

サクリファイス