いしいしんじ『ポーの話』新潮文庫

ネタバレ特になし。
みずみずしくて、あたたかくて、でも残酷で哀しくて。総じてこの上なく豊饒な物語世界。なんてことはない、いつものいしいメルヘンです。
表紙も最高だったし、読む前からこんなにワクワクさせてくれる作家もなかなかいませんな。メルヘン・ファンタジーとして純粋に「面白い」物語を紡ぎつつ、ラストに待ち受けるのは神話にも似たなにやら荘厳な感覚。今回は割と分かりにくい…というか、芸術性がさらに先鋭化している感じがして、たとえば『麦ふみクーツェ』あたりよりのめりこめない感はありましたが、それでもこの古今類を見ない、物語作家としての力量には圧倒されてしまいます。
込められた寓意やその芸術性の如何、いろいろと語られるべきものはあるのだろうが、俺は無理だ。細かなファクタの好き嫌いについて云々するのもやめておこう。ただただ、この豊かな「大河」に呑まれるのみ。
評価はB+。

ポーの話 (新潮文庫)

ポーの話 (新潮文庫)