薩川昭夫/庵野秀明『シナリオ ラブ&ポップ』幻冬舎文庫

ネタバレ特になし。
村上龍原作、庵野秀明が監督した映画のシナリオ。こんな文庫本まで持ってたんや…ホントこの本棚は驚きに満ち溢れてるなあ。
原作も読んだけど、なにより鮮烈なのは映画の記憶。ビデオをダビングして何回も観ました。
前世紀末、「シブヤの女子高生」のともすればステロタイプな日常を、斬新な演出で新鮮に切り取った庵野の手腕も出色のもの。しかしなによりこの作品は、三輪明日美という新人女優が、その才能と輝きをスクリーンに刻んだ、フィルモグラフィ中最良の作品である。今でも、≪治療が先≫というセリフで彼女が見せた表情がありありと思い出せる。ワキの仲間由紀恵なんか完全に差し置いて、納得の主演女優ぶりだったぜ。最近の活躍を聞かないが、*1彼女の沈黙は、日本映画界の間違いない損失だろう。
…まあそんな懐旧が感想の大半を占めてしまったが、それもこのシナリオが映画の清新な空気をしっかり伝えているからで。刹那の中に価値を掴み取ろうとするジョシコーセーの冒険が、ナチュラルに、テンポよく、爽快な余韻を残す。青春映画の間違いない傑作の一つである。
…でもたぶんこの本を古本屋に売った人は、単に庵野のイタイ種類のファンだったんだろうな。「庵野秀明初実写監督作品」かなんかの帯をわざわざ扉に糊づけしてるし、作中の格言めいたセリフ(そんなのこの作品の本質じゃないと思うが)に黄色のマーカで線引いてやがるw そこまでしたなら売るなよ。俺の仕業だとブクオフの人に思われませんように…。
評価はB。

*1:なんか今検索したら超元気そう(母親として)。何より。