ネタバレ特になし。
第一短編集。
実際、詩的で美しく、そして絶妙に「昏い」この人のそれほど、酔わせてくれる文章を知らない。その文章家としての類稀な資質は、「端整」の最たるものだと思うが、それがいざ「小説」になると(ミステリであれホラーであれ)、途端に「歪み」として作品に影を落とす有様がとても面白い。さまざまな意匠とプロット、そして文章が緊密に絡んだ、危うい結晶のような作品たち。それらによってもたらされる酩酊感は、まさに唯一無二の悦びだ。
著名なる「恐怖」は実際、ホラー・ショートショートとして絶対的な完成度を誇っているが、それ以外のミステリ短編でも、たとえば「氷雨降る林には」「緑の誘い」といったあたり、純粋なプロットの完成度としても客観的に高いと思う。それにモチーフ・イメージと文章の美をカブせてくるんだから、もう辛抱たまりませんぜ。
ミステリとして、ホラーとして、幻想小説として、語り継がれるべき仕事。ただSFは分からんかった。
評価はB+。
- 作者: 竹本健治
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1997/11/01
- メディア: 文庫
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