筒井康隆『エディプスの恋人』新潮文庫

ネタバレ注意。
家族八景』『七瀬ふたたび』と三部作だということに気づいて、二作目を未読だということを激しく後悔したが、取りあえず、これは激しく面白いぞっ!
テレパスを主人公に設定した上での、間断ない思考叙述というこのシリーズの実験的手法をプロットに結びつけた物語の面白さは、連作短編集であった『家族八景』から完成されていたが、この作品においては「神」という「絶対意思」を持ち込んで物語のスケールを拡大しておきながら、ラストに至ってメタフィクショナルな自己言及でうまくオトす、といういかにも筒井的な稚気*1がキマっており、エンタテインメントSFとしての完成度は完璧に近い。物語のステージによって多種多彩なリーダビリティが発揮されており、とても心地よく翻弄してくれる。SFとして、ミステリとして、恋愛小説として、それぞれ読み応えがあるだろう。
田舎町での微笑ましい恋愛模様を読み、さらにラストに至って、『パプリカ』の気持ち悪さはやはりワザとだったんだな、と思った。
評価はA。

エディプスの恋人 (新潮文庫)

エディプスの恋人 (新潮文庫)

*1:この作家について書く時「筒井的な稚気」って単語を使いすぎな気がするが。