西澤保彦『方舟は冬の国へ』光文社カッパノベルス

ネタバレ一応注意。
「ある目的」のために「家族を演じる」男と女、そして少女の物語。
西澤的設定として、テレパシーや未来予知も絡んでくるのだが、それは正直添え物。それどころか、ミステリとしての体裁を成す「日常の謎」的なプロットも、作者自身あとがきで連作「日常の謎」本格としての結構を放棄したことを述べているように、連作としても一冊を支えきれるものではない。
読めば誰でも思うことだろうが、この小説を魅力的なものにしているのは、即席の家族であることを強いられた三人が、「家族」として成立していく機微、それを描くことを可能にするこの作家一流の心理描写の故である。その意味において、そして俺が思うところとして、この小説は極めて「西澤的」な魅力を発信している。
作者自身まさに述べているように、「ファンタジック・ロマンス」、「おとなのお伽噺」として一級品の仕上がり。すごくいい「小説」で、これが一流の「小説家」の手になる作品なのだと実感させてくれる。
「まて。まてまてまて」ってセリフが最高だった。
作品の評価はB+。

方舟は冬の国へ (カッパノベルス)

方舟は冬の国へ (カッパノベルス)