『関心領域』

@八丁座

アウシュヴィッツ強制収容所長、ルドルフ・ヘスと家族の生活を描く歴史戦記。

遠く聞こえる怒号、悲鳴、銃声。暮れなずむ空にたなびく煙と、静かな夜の窓を赤く照らす炎。きらめく川面を侵食する骨灰。絶滅収容所に隣接するナチス高官家族の「質の高い」生活の美観を描き、その背景にゆらめくホロコーストの残虐を浮き彫りにする、というまったく新しいアプローチ、しかしそれは一発アイデア勝ちという浮薄さでなく、緻密に構成、配置された前衛的映画表現として見事に顕現している。傑作。

特に終盤、唐突にヘスを見舞う嘔吐と、現在のアウシュヴィッツにおける資料展示が錯綜する演出は、階段という象徴性も加えて、とても鋭利にクリティカルだと思った。人間性を捨て去った獣も、実は心身を追い込まれる卑小で弱い存在であったのか。人類史上最悪の残虐な行いも、そうして卑小な存在である人間によってなされたものに他ならないという圧倒的な現実。そして、そうしたものを、我々は本当に裁き得ているのかという疑問…悔い改めることなどできるのかという絶望。息を呑んで画面を見つめるのみでした。

キャストでよかったのはもちろんザンドラ・ヒュラー、『落下の解剖学』ほどにアップでお得意のキレ芸を堪能できたわけではないけれど、アウシュヴィッツでの生活に固執するグロテスクなエゴイズムを、なんとも残酷に表現してくれておりました。