『善き人のためのソナタ』

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東西分割統治下の東ドイツ、反政府活動により国家保安省…シュタージの監視下に置かれる劇作家と、彼を監視盗聴するシュタージ大尉の葛藤を描くサスペンス。

スパイ映画としての緊張感と共に、枯れた味のあるいい映画でした。旧共産圏らしい荒涼として物悲しい美術・音楽も、初見の独俳優陣の仕事も充実しています。

なによりシュタージ大尉・ヴィースラーを演じたウルリッヒ・ミューエは出色でした。序盤の「凡庸な悪」そのものを具現化したような鉄面皮、そしてやがてそれが罅割れていくヒューマニティの表現によって。ヴィースラーの行動原理には説明不足と感じられる点も多い*1のですが、それに有無を言わせぬ説得力を与えているのが、彼がヴィースラーとして表現する繊細な表情であることに間違いはないでしょう。ラストシーン、献辞のテロップとその後のひとことには震えましたね。

ウルリッヒ・ミューエは実際にシュタージの監視対象であったことがあり、かつての妻をスパイとして告発してもいるのだとか。この配役とは出会うべくして出会ったということですね…こういう運命的なエピソードに接すると、映画という表現媒体のなにかマジカルな力に感じ入らざるを得ないっすね。

*1:クリスタにやられたんかと思わせつつそうでもなかったり…ね。