『裏切りのサーカス』

DVD。
ゲイリー・オールドマン主演のスパイ映画。
サービス精神を美意識へのストイシズムで封印した、観る者になかなかのリテラシィを要求する作品です。諜報部員・工作員たちの複雑な人間関係と虚々実々のやり取りが、時系列様々に、凡庸な解説めいた機構を排されて描かれます。
単純には登場人物たちの名前覚えるだけでも大変ですが、そうしてストイックに表現される、映画作品としての緊張感、物語と中心の謎に対する没入感は、この暗鬱でどこかうら寂しくもある映画をエンタテインメントとして成立させています。各々シブさにおいて充実した俳優陣の演技と共に…ゲイリー・オールドマンはやっぱり鉄板で素敵だけれど、他にはマーク・ストロング*1がよかった。
しかし一方で、こう謎めいて緊迫感のある演出にしたのなら、もっとサプライズなりどんでん返しなりが欲しいような…真相はいくつかの並列的な可能性のうちの一つに、別段の必然性なく収まってしまったような感じもして。でもこれは、小説でもなんでもカタルシスカタルシス言うてうるさいミステリ読みの歪んだ性というものか。
あと同性愛要素はもっと絡めるか捨象するかどっちかにしてほしかったけど、この宙ぶらりんな感じも作品のカラーなのかもね。

裏切りのサーカス コレクターズ・エディション [DVD]

裏切りのサーカス コレクターズ・エディション [DVD]

ジャケットだともっとケレンのあるスパイ・アクションみたい。イメージと全然違うな…。

*1:『シャーロック・ホームズ』のブラックウッドは全然憶えてないんだけど。