樋口有介『月への梯子』文春文庫

ネタバレ注意。

アパート「幸福荘」の管理人として穏やかに暮らす主人公、「ボクさん」が巻き込まれる殺人事件を描く長編。

主人公の造形と、その周辺の人々との交流の機微、そのあたたかさや愛らしさと同時に、そこを掠めて滲む一抹の不穏さと毒が、作者らしい軽やかな筆で描かれている。「アルジャーノン」的プロットの妙が、ハードボイルド・パロディとしての面白さに拍車をかけている。

さすがの面白さに唸りながら、「アルジャーノン」プロットの故、ラストはこのままじゃないだろうな、と思って警戒していたけど、まさかこうオトす…これを単にオチと表現してしまうのは不適切だが…とは、と呆然としてしまった。

「(伏字)オチ」の再構築をしながら、何とも言えない複雑な余韻を残す、攻めた物語性。さすがです。

評価はB。