林芙美子『放浪記』新潮文庫

ネタバレ一応注意。

大正末期、上京し、貧苦の中で職を転々としながら、筆で身を立てる希望に生きる作者の自叙伝。

独特のヤケッパチ感、スピード感があってよかった。挿入される詩作にはあまり雰囲気を感じられなくて残念だったが、本文中にハッとさせられるキレは垣間見える。

私には初めての見知らぬ土地であった。(中略)門司のように活気のある街でもない。長崎のように美しい街でもない。佐世保のように女のひとが美しい街でもなかった。骸炭のザクザクした道をはさんで、煤けた軒が不透明なあくびをしているような町だった。
(10p)

私の詩がダダイズムの詩であってたまるものか。私は私と云う人間から煙を噴いているのです。イズムで文学があるものか! 只、人間の煙を噴く。私は煙を頭のてっぺんから噴いているのだ。
(445p)

この尾道の文豪の代表作は、前職の同僚の皆さまから餞別としていただきました。ありがとうございました。

しかし、どこででんぐり返しするんだ…?

記録のみ。