ネタバレ注意。
昭和十年、華族令嬢・笹宮惟佐子を中心に、戦争へ傾斜していく世相と、その中でのある陰謀と事件を描く長編。
まず、融通無碍とはこのこと…端正にして華麗、時に峻厳な文体と、時系列と視点を自在に操る映像的なテクニック、史実と伝奇イメージを止揚したストーリィテリング、ひと癖もふた癖もある魅力的なキャラクタと、毒を含んで上質なユーモア…、冒頭からやべーぐらいに面白くて、久々に興奮で吐気をもよおすぐらいだった。
この密度の大長編をあっという間に読ませてくれるけど、二・二六がテーマって前知識に期待を煽られていて、その意味では後半のオカルティックな展開の中に埋没してしまったような印象があったのは残念だったかな…それでも惟佐子の復讐は最高にカッコよかったげな。
しかし笹宮惟佐子、忘れがたないヒロインだなー。下手したら今までの「小説」というくくりの中で一番かも。あと奈緒美も名シーン製造機で素晴らしかった。惟浩とのシーン、実は読者が別れを告げるべきは彼の方だったとはね…哀しくもせつないやね。
評価はB+。
- 作者:奥泉 光
- 発売日: 2020/12/23
- メディア: 文庫
- 作者:奥泉 光
- 発売日: 2020/12/23
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