森博嗣『イデアの影 The shadow of Ideas』中公文庫

ネタバレ注意。

薔薇の咲く家に棲む「彼女」の、男たちとの出会いと別れを描く長編。

定型的なゴシック・ロマンスである一方で、透明感のあるリリシズムが独特の世界観を作っている。お話自体は陰惨でもあるが、揺蕩うような浮遊感があって、心地よく読むことができるのが不思議。

リリシスト・森の一面を照射する佳作だが、谷崎についての素養に乏しく、没後五十周年記念作としての妙味が味わいきれていないだろうことが残念。

評価はB-。