松尾由美『ピピネラ』講談社文庫

ネタバレ注意。
夫の突然の失踪と、それを追う妻自身の身体に起こるある「変調」。オフビートでちょっとファンタジックなトラベル・ミステリ。
文章は過不足なく流麗、また設定や地名などの世界観にそこはかとなく漂うファンタジィ性も心地よく、少し初期村上春樹を彷彿させるような、さすがの松尾ミステリでした。
ジェンダやフェミニズムに関する主題も、あからさまに提示されながらも決着は絶妙に「落ち着き悪く」、それはしかし不備と言うよりは短絡を拒否しているようで、懐の深さを感じさせてむしろ印象は良いです。
堀井から「夫のために」伝票を取りたかった、という加奈子の回想など、小説として面白い引っ掛かりを感じるシーンもあり。短さとリーダビリティの両面で、あっという間に読めてしまいますが、見所は多いです。
菅聡子*1の解説も、そうした多義性を捉えて見事でした。
評価はB。

ピピネラ (講談社文庫)

ピピネラ (講談社文庫)