綾辻行人『Another』角川文庫

ネタバレ注意。
夜見山北中学、三年三組は「呪われたクラス」。定期的に、ある年クラスの生徒とその近親者に死者が相次ぐ、そしてそうした年は、クラスに一人、「死者」が入り込んでいるのだという。主人公・榊原恒一は転入してきた「夜見北・三年三組」でその「呪い」に巻き込まれ…。
久々の綾辻、ハードカバーを買わずにいたら文庫化が早くて嬉しい、学園ホラーです。
ライトノベルめいてもいる軽いタッチ、ストーリィのテンポもあいまって千枚の長さをあっという間に読ませます。いろいろとメディアミックスされてもいるようですが、確かにコミカライズやアニメとの相性はいいかも。中心人物である見崎鳴ちゃんとか、如実に綾波レイを想起させるキャッチーなキャラです。俺が綾辻に求めているものとは若干志向が異なるけれど、「そういう要素」がこの早い文庫化の一助ともなり、また若い層にこの作家の読者を増やし、かつての僕のように「魅入られる」者が増えるのだとしたら、それは喜ばしいことではあるでしょう。解説で初野晴が述べているように、彼らの前にはまだ『十角館』も『時計館』も『霧越邸』も、未だ扉を開かずして待っているのですから。
作品内容について。ホラーとミステリの融合として、水準を越えた作品だとは思います。ホラー的な着想の根本をなす、「死者」にまつわる"Whodunit"ならぬ"Who is it?"の妙味と、ミステリ的な構成としての叙述トリックによるサプライズ。それぞれ評価すべき達成だと思いますが、その二本の柱それぞれが互いを効果的に見せるのではなく、互いの弱点を補いあっているように、それぞれが互いを高めあうのではなく、赦しあっているように、僕の目には見えてしまいました。贅沢な読者として、前者のようであればより素晴らしかったのになあと、若干のヌルさを感じたのも事実ではあります。小説の構図として「喪われたマザーコンプレックスの克服」という着地点が示されるのも、綺麗ではありますが若干学園ラノベ的なベタさを免れません。
学園モノとしての雰囲気・キャラクタ造形や、ホラーとしての「心地よく秘密めいた」感覚は、あとがきでも影響を述べている恩田陸や、あるいは「綾辻的なもの」の今日最もバランスの取れた継承者であろう辻村深月など、後続に譲るような部分もありますが、個人的にはやはり小説の原風景たる作家、頁を繰る手は止まらずに、あっという間に読み終えてしまう愉しい作品でした。主人公たちが同学年というのも、ノスタルジックに嬉しいところ。
評価はB+。

Another(下) (角川文庫)

Another(下) (角川文庫)