雨宮町子『骸の誘惑』新潮文庫

ネタバレ一応注意。
予備校の女教師の主人公が、弟の死に関連していると思われる謎の女を探す、というミステリ。
念頭にあるのは紛れもなく『火車』だと思われる。『火車』におけるカード破産を、自己啓発セミナーとマルチ商法に変えただけ…とまでは言わないまでも、「謎の女」の素性を、背後にある社会的なトピックを通じて描き出すという手法は共通している。でもこっちは、調査が進めば進むほど「謎の女」から神秘性が失われていってしまうという真逆。それは作品の志向の違いなのかもしれないけど、俺は単純に宮部みゆきとの「格の違い」を感じてしまったのでしたが。
そこに味付けとして、主人公のトラウマとか、崩れた中年男とのロマンス入れたりしてるんだけど、氷室という男も出てきた当初は謎めいて魅力的だったが、どんどんそのヴェールが剥がれて、褪せていってしまった。ツンデレ主人公のツンがとれていく過程と同時に。なのでこの恋愛沙汰にはまったく説得力を感じられず。
社会派的なテーマはいろいろと詰め込まれている。最後に至っての「家族再生」とかね。いろいろ手広くやり過ぎて、筆力が追い付いていない感じ。
評価はC。

骸(むくろ)の誘惑 (新潮文庫)

骸(むくろ)の誘惑 (新潮文庫)