石川真介『断崖の女』光文社文庫

ネタバレ注意。
いっそ読まないで売った方が、人生収支としてはプラスではないかと思ったりもする。しかしこうやって、「どうせつまらないことが分かってるけどなぜか持ってる本」を消費するのに、どこかマゾ的感性が惹かれているのも事実。小池真理子とかアタリもあったし。
ということでめっきり消えた鮎川哲也賞作家。鎌倉・九州・愛知をうだうだと巡る、旅情交じりのミステリです。今回は『不連続線』よりグルメ描写は抑えめ。
登場人物それぞれの思惑や、血縁関係が輻輳し、過去・現在入り混じって様々な事件が混迷の一途を辿る、最後にはどんでん返し、という謎の迷宮構成。こういう趣向のミステリは嫌いじゃないんだけど、いかんせん作者の筆力が、あいにくと読むに堪えるものではない。
主人公の女を中心として、登場人物の感情や行動の流れが意味不明。感情移入以前の問題である。主人公の女は、ダンナがあまりにも愚劣なので、あてつけに貧相なおっさんと寝たりするんだけど、こういうのをイタイおっさん自身が書くといかに気色の悪いことになるか、担当編集あたりは助言しなかったのだろうか。これで「書いてやったぜ、時に不合理な女ごころ」的に悦に入ってる様子が目に浮かぶ書き方。女性を主人公にするのは絶望的に間違ってる、とりあえず。
ただひとつ、美点があってそれでDは回避する。物語のキーになる旅館の名前。爆笑したけどどこまで天然なのか。
曰く、「玉金荘」。
評価はC−。

断崖の女 (光文社文庫)

断崖の女 (光文社文庫)