辻村深月『ぼくのメジャースプーン』講談社文庫

ネタバレ一応注意。
うん、「泣きそうになった」よ。
今回は「悪意」に立ち向かう小学生のお話。小学生の主人公の生活をこまやかに描き、それに感情移入させる、サラリとこなしているけど実はこれ、相当の難事だと思うのです。さすが教育学部出…とかよりなにより、彼女の作家としての最大の美点である「丹念さ」、構築的な筆力のゆえだろう。何度も言ってる、コレ。
そしてそれは、主人公と「先生」の間で重ねられる問答において、この小説の主題を顕在化させる。突然の悪意に晒された時、人はそれにどう対処すべきか。復讐は正当化され得るか。そしてそれは、なんのためになされるべきか。
小説の見た目は、ジュブナイル・ファンタジーに近い。まあこの作家の場合、「ファンタジー」ではなく「すこし・ふしぎ」だろうけれど。そうした「まるみ」の中に、これだけの哲学と主張を、感動的に提示できるのだから凄い。類似したテーマにおける、森博嗣の傑作『探偵伯爵と僕』に匹敵する達成だと思う。つかミステリーランドで出せばよかったのに。

「馬鹿ですね。責任を感じるから、自分のためにその人が必要だから、その人が悲しいことが嫌だから。そうやって、『自分のため』の気持ちで結びつき、相手に執着する。その気持ちを、人はそれでも愛と呼ぶんです」
(486p)

…この小説のテーマソングを、俺は勝手にRADWIMPS「愛し」と認定しました。ここだけ抜き出したらちょっとクサいけどな。
今回のサプライズも衝撃的だったし、「彼女たち」とまた会えたのも嬉しかった。読んでいる間、行間から立ち上がる「物語」に対する敬意。彼女の小説を読むことは、常にそれへの信頼感を再確認することでもあります。
しかしこれが4作めで、次が『スロウハイツ〜』だろ…? どんだけ粒揃いなんだよ。
評価はB+。

ぼくのメジャースプーン (講談社文庫)

ぼくのメジャースプーン (講談社文庫)