貴志祐介『新世界より』講談社

ネタバレ特になし。
こちらもひょんなことから入手。
前年のランキングも席巻してたし、信頼のおける評者からの傑作だという評判も聞いてはいました。ただ「このミス」で紹介されてたあらすじもよく分からなかったし(読んでみたら確かに、この大長編ファンタジーを梗概に落とすのはかなりの難事なのだけど)、今までのこの人の作品、その筆質からしてSFってのはどうなんだろう、と思って、期待はそう大きいものではありませんでした。
実際は…凄く楽しかったです。傑作、でしょう。
あらすじを紹介するのは僕の手に余るので各所参照いただくとして、上下巻、これだけの長さがありながら、頁を繰る手を止めさせない、一大エンタテインメント巨編です。
展開のダイナミズム、描かれる「呪力」や、世界観とそのイメージの豊饒。派手さと、「地に足のついた」感じを兼備したファンタジィSFとしての完成度の高さは、この作家の既読作品、『黒い家』や『青い炎』、『硝子のハンマー』といった作品からくる手堅さ、質実剛健のイメージをいい意味で覆してくれました。でもそうした美点も同時に、生物学や社会学、心理学などの考証を通して、さらなる緻密さとして結実しているのだけれど。
…しかしこんな色気のない言葉でしか語れないのが悔しくなるほど、読んでいてドキドキワクワクハラハラの作品なんですよ。無理矢理言えば『ナウシカ』と『もののけ姫』と『ハリー・ポッター』を足して三で割ったような…違うかもな。
とにかく掛け値なしで楽しめたのでしたが、この「長さ」が貢献してる部分も大きいと思うし、実際長くは感じなかったのだけど、半分でこの感動とエンタテインメント性だったら凄かっただろうな、と無理なことを思ったので…
…評価はB+。

新世界より (上)

新世界より (上)

新世界より (下)

新世界より (下)