黒武洋『メロス・レヴェル』幻冬舎文庫

ネタバレ注意。
久々に、口をきわめて罵りたい小説を読んでしまった。読んでる最中もやめたくてしょうがなかったのだけど。
デビュー作『そして粛清の扉を』も酷かったが、そっちの方がまだ価値のある、というか意味の分かる小説だったような。傾向としては、『バトル・ロワイアル』とか『クリムゾンの迷宮』のような、未来想像デスゲーム小説。だけどそれに、重厚さと勘違いした鈍重さと、無意味な批評性を加味して、一番大事なエンタテインメント性を剥ぎ取ってしまった、なんとも不思議な存在としてこの小説はある。
定まらない視点と生硬な文章があいまって読み難いことこのうえないし*1、平板にして空疎なキャラクタ造形は、キャラクタ間のやり取りやドラマ、どんでん返しを完全に無に帰す。リアリティ皆無の近未来の世界設計には、細部のテクノロジー描写なんかにも失笑してしまうが、なにより中心にある国家主導の「ゲーム」の設計において、その創意工夫とエンタテインメント性の欠乏が致命的だ。ウルトラクイズでデスゲームかよ。
そしてまあ、根本的に許し難いのは、当初アイロニーとして機能させているのだと思った、国家の根本思想としての「家族神話」を、ラストに至っては結局礼賛して物語を〆てしまっていること。ホラーとしての不条理とか、そういう処理でもないと思われる。何も考えずに小説書いてるんだなーとため息が漏れた。
評価はD。

メロス・レヴェル (幻冬舎文庫)

メロス・レヴェル (幻冬舎文庫)

*1:158p、「美しい日本語」云々という作中人物に対する説教は作者にそのまま進呈したい。