池井戸潤『金融探偵』徳間文庫

ネタバレ一応注意。
図らずも「金融探偵」として活躍することになってしまう失業中の銀行員、大原次郎を主人公とした連作。最近仄かにブレイクの機運も見え始めている作家だが、以前『架空通貨』*1かなんかを読んで、リーダビリティの面では印象の良い作家なのでした。
…そうでもなけりゃ手に取らないだろうな、って感じの無骨な表紙、無骨なタイトルからして、もっと色気に乏しい硬派な小説かと思っていたのですが、あにはからんや。角膜移植者に訪れる幻視の謎というSF的な設定があったり、古い家計簿からその待ち主を推理する歴史推理モノがあったりと、エンタテインメント・ミステリとして多彩な読みどころを提供してくれる。文章も平易で、やはり性能は高い作家です。
プロットもちゃんと考えられてて、ライトな横山秀夫ってノリだ。あっちは重くてたまに読むのが億劫になるので、これは手に取りやすくていいかも。ただ伏線やロジックに甘さは見られる。短編だしまあしょうがないのかも。
評価はB−。

金融探偵 (徳間文庫)

金融探偵 (徳間文庫)

*1:俺が読んだのはハードカバー版『M-1』だったけど。