恩田陸『黄昏の百合の骨』講談社文庫

ネタバレ注意。
一応、見捨てないことにしました。
『麦の海に沈む果実』*1の続編。前作のような異世界じみたスケール感はなく、海辺の街の「洋館」と舞台設定はだいぶスケールダウンしている。しかしその「館」に孕まれる謎と静謐な空気を、心地よい緊張感を滲ませながら描いていく手腕は、「ミステリ作家」としての恩田の面目躍如。俺はこの作家を、なによりこういう技巧において信頼している。
ラストの国際謀略サスペンスめいた大風呂敷の広げ方など、物語の収斂は嗜好から離れてしまった印象もあったが、「場」と「キャラクタ」で読まされ、満足感は高かった。理瀬はオトナになってますます魅力的になったねえ…(キモい)。
あとはそう、何より、前作に引き続いてラストシーンの文章がとても綺麗で泣きそうだった。これだけ「綺麗な文章で落としてやろう」って感覚で向かってきながら、全然スベらないってのは凄いよ。ラストシーンの文章を憶えているのなんて、前作とこの作品の他には、『今はもうない』と『数奇にして模型』ぐらいだな。
作品の評価はB。

黄昏の百合の骨 (講談社文庫)

黄昏の百合の骨 (講談社文庫)

*1:何度も云っててもうホントにどうでもいいと云われるだろうが一応云っとくけど私的恩田ベスト。