松下竜一『松下竜一その仕事 20 記憶の闇』河出書房新社

ネタバレ特になし。

1974年、兵庫県の知的障害児施設で起きた入所児童連続不審死と、その犯人として逮捕された保育士の雪冤を描く長編ノンフィクション。

冤罪ものにおける、日本の警察権力のエゲツなさ、無能を棚に上げた厚顔無恥は毎度のことであるが、松下の筆によるその再現はやはり陰惨を極めるもので、読むのに非常な体力を要した。著者が得意とする「反骨もの」とはまた違った読み味のものだが、対象に対する真摯なシンパシィが作家性の筋を通している。

いろいろ感想はあって、当時のマスコミのエグさはさすがに現代のがマシな気がするとか、同僚を唆してくる作中のMとかいう活動家崩れが笑止千万で、別に本筋関係ないけど、『狼煙を見よ』の作家からしたら、こんな美味しいピエロ晒さずにいられなかったかとか、ルイズさんが悦っちゃんの助けになっててすごく嬉しいとか。いずれにせよ、困難に打ち克った悦ちゃんと支援者諸兄にbig respectっす。

そしてそんな真摯なノンフィクションをものした作家の中にも、剔抉すべき差別意識があることを示す山口泉解説は、いつもながらの容赦なさで素晴らしかった。得難い叢書解説者だと思います。

評価はB。