松下竜一『狼煙を見よ』河出書房新社

ネタバレ注意。
東アジア反日武装戦線、特に「狼」部隊の起こした一連のテロと、逮捕後の法廷闘争を描くノンフィクション。名著の評判を聞いていてずっと読みたかったんだけど、河出が復刊してくれました。高橋和巳といい桐山襲といい、いい仕事してるわホント。
期待に違わぬ、端整ながらもエモーショナルな喚起力のある、一流のノンフィクションで堪能しました。沢木耕太郎なんかもそうだけど、ジャーナリスティックってより純文学的な資質のある書き手のものの方が、少なくとも俺には響くなあと。
読んでる間の感覚としては、とにかくせつないです。大道寺らのピュアネスが、挫折し、歪んでいく様もそうだけど、特に母親の心情や懐旧の描写は、涙なくしては読めません。
徹底して加害者の側に寄り添った内容ではあり、被害者感情の側面からの倫理的・情緒的な批判は避けられないところであるとは思う。しかし完全に中立の立場に立って質の高いノンフィクションをものすなんてことは、いっそ不可能なレベルの難事だし、作中での作者の/大道寺のそれぞれレベルの異なる煩悶、それに向き合った結果としての172pの大道寺の自己批判は、そうした批判も包括して、作品を一段上のレベルに引き上げていると思う。
センチメントと共に、なにか襟を正したい気持ちにさせてくれる、凛として孤高の傑作です。
評価はA。