有栖川有栖『鍵の掛かった男』幻冬舎文庫

ネタバレ注意。
大阪・中之島のホテルに長期滞在していた老人の死と、その人生の謎を解き明かす、火村英生シリーズの最長長編。
中之島のプチホテルという舞台はホテルライフへの憧れを惹起して魅力的だし、それが立つ場所の地誌小説としての妙味もある。一方物語の中心にある梨田老人の謎については、発端からは興味をもって読めるが、段々メロドラマになってしまってつまらなく感じたし、ラストの一行なんて特に興醒めだった。こんだけ長々と読まされてこのベタさは…という感じ。
ただ犯人の悪意のありようや、それによって自爆してしまうシニカルな展開に、ミステリとしての面白さはあった。でも手掛かりとしての薬包紙なんかあまりに迂闊で名探偵との勝負にならず、知能対決の構図が描かれなかったのは残念。「3つの理由」なんかを含め、犯人像にも作家の「人のよさ」が出てしまっている様相だけど、俺はそれを「鈍さ」として受け取ってしまうな。
評価はC。