市川憂人『ジェリーフィッシュは凍らない』東京創元社

ネタバレ注意。
気嚢式浮遊艇…「ジェリーフィッシュ」の普及した近過去を舞台に、新型艇の試験飛行に飛び立った研究者グループを襲う鏖殺を描く長編。第26回鮎川哲也賞受賞作。
非常にクレバーで、香気漂う、俺好みの本格でした。近過去のパラレルワールドの構築、事件と捜査の二視点を、時系と情報の出し入れをしながら描くリーダビリティと、そこに仕組まれた企み…ジェリーフィッシュにまつわるメイントリックと、「あんた、誰?」という問い掛けから導かれ、光景を塗り替える一瞬のカタルシス。描写・人物造形も行き届いて過不足なく、安心して知的興奮に浸ることができます。
ラスト、犯人のモノローグで披瀝される犯行過程が超人的で、なんだこいつメンタリストかよと思ったりはしましたが、「あんた、誰?」に含まれるある種メルヘンチックな要素がカリカチュアとして機能してもいて、そのあたりは周到です。
鮎川哲也賞中でも屈指の作品と思え、俺は『屍人荘』より好きですが、それは作者のレヴュアとしてのノリに以前から好感を持っていたことも作用しているかもしれませんね。
だいぶ遅くなりましたが、おめでとうございます。
評価はB+。

ジェリーフィッシュは凍らない

ジェリーフィッシュは凍らない