青井夏海『陽だまりの迷宮』ハルキ文庫

ネタバレ注意。
11人きょうだいの大村家の生活に起きる謎を描く連作。
ほのぼのとしつつ理知の鋭さを感じさせる筆致、こまやかながらムダのない描写、納得性の高いプロットと伏線の妙。やっぱこの人巧いわ、という信頼を感じさせてくれる、「日常の謎」の傑作です。
11人きょうだい、という野心的な器があって、確かな力量の描写と作話がそれに盛り込まれているので、連作のメインを成すのが三話の短編てのはちょっともったいない気はする。斎藤さんとか、もっと活躍と行く末を見たかった魅力的なキャラクタもいたし。
しかしこの作品の最大のキモである、「下宿人名探偵・ヨモギさん」をめぐる、シリーズの存立に根源的で、それ故に非常に感動的などんでん返し…日常の謎連作からビルドゥングス・ロマンへと作品の構造を反転させもする…が、各編のクオリティに支えられて鮮烈なのだろうと理解されもするので、やむを得ないところかな。
いい作品だったので、処分読書には珍しく、蔵書への残留が決定しました。『赤ちゃんをさがせ』もとっとけばよかったかな…。
評価はB+。

陽だまりの迷宮 (ハルキ文庫)

陽だまりの迷宮 (ハルキ文庫)