多岐川恭『変人島風物詩』創元推理文庫

ネタバレ注意。
創元からの多岐川恭コレクション。表題作と「私の愛した悪党」の二長編収録。
表題作は、芸術家を中心とした「変人」たちが集い暮らす島を舞台とした連続殺人。中心のハウダニットはシンプルだけど、フーダニットの点においては、殺人を取り巻く各人の動きが複雑で、しかもそれをお互いの交叉も含めてああでもないこうでもないとこねくり回すもんだから非常に煩雑で、整理して考える気にもならなかった。また男女の生臭い関係性も入り組んでて、創造性が情痴に寄り過ぎ。孤島ものに期待するようなストイシズムが感じられなかった。
一方で「私の愛した悪党」は、安アパートに暮らす人々の間に、過去のある乳児誘拐事件が波紋を広げ、やがて殺人の発生に至るという、こちらも集団生活に根差したユーモア本格。伏線とか単純で、プロットはバレバレだけど、終盤のドタバタ含め、下町(?)の安アパートでの集団生活が牧歌的に描かれていて、こちらの方が好ましかった。特に主人公・マユリ嬢と小悪党の芸術家・万代くんの恋愛模様は楽しくやがてせつなく描かれていて、この作品のユーモアミステリの佳品としての成立に大きく寄与している。結局マユリ嬢は父親も小悪党だったわけで、娘は父親に似た男を好きになるって大半が願望と思われるテーゼを、マユリ嬢からの叱咤を得て、万代くんにはぜひ覆してほしいものだと思いますが…続編なんてないんだろうなコレ。
評価はB−。

変人島風物誌 (創元推理文庫)

変人島風物誌 (創元推理文庫)